オレンジ色のカボチャのランタンに紫や黒のリボン。
魔女やお化けのシルエットが店のショーウィンドウにずらりと並ぶなか、俺は家への道を歩いていた。
10月31日、ハロウィン。
様々なメディアが取り上げ、ポピュラーになった感があるこの日だが、実を言うとキリスト教の総本山イタリアでは身近な祭りではない。
どちらかというとイタリアで重んじられるのは11月1日のFesta di Ognissanti(諸聖人の祝日)とその翌日、11月2日のCommemorazione dei Defunti(死者を偲ぶ日)だ。
かくゆう俺もハロウィンにはたいして興味がない。
でも、今までは死者を偲ぶ日にも興味はなかった。今年は「特別」なのだ。
そしてその「特別」はきっと年を重ねるにつれて「いつも通り」になっていくのだろう。
腕の中の黄色い菊が揺れる。
日本では墓参りの時に菊の花を持って行くらしい。
赤や白の菊と迷ったがあの人にはきっと黄色が似合う。

家に帰ると俺はまずバケツに水を張り、今日買ってきた菊を丁寧にその中に入れた。
買った後に明後日あの人のところへ行く直前に買えばよかったと思ったけども買ってしまったものは仕方ないので明後日までしおれないでいてくれることを切に祈ろう。
自室に入りテレビをつけると途端に目に飛び込んできた「Halloween」の文字になんだかつまらなくなってそのまま消した。
あの人にdolcetto o scherzettoなんて催促することはおろか、あの人とこの日を過ごしたことも一度もなかった。
それほどに短い付き合いだったけどそれでも俺の中であの人は確かに特別なのだ。
できるならあの人ともっと一緒に過ごしてみたかった・・・と思う。
そして、あの人のサッカーにもっと触れてみたかった、とも。

「ミスターK・・・・・・」

あの人の祖国である日本にはお盆という行事があって、それは死者を偲ぶ日のように墓参りをし、そして死者があちらから帰ってくる日らしい。
正直よくわからない表現も多かったがそれでも。
死者を偲ぶ日とそのお盆という行事が似ているのなら・・・・・・

「来てくれたり、しないかな・・・」

ベッドに寝転がり、そっと目をつぶる。
疲れていたのか途端に睡魔がやってきて意識が薄くなっていく。
瞬間脳裏に映ったのは今日あれほど見たオレンジや紫ではなく、あの人の金と白だった。



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